聞きたい! この人のお話 vol.10 <後編>

身体を通して文化を学び、感性を磨く 学びの場として、<ハタラクカラダワークショップ 声と呼吸~能の「謡」に学ぶ~> (2020年1月〜3月・全6回)を開催。講師としてお迎えした河村晴久さん(能楽師・観世流シテ方)に、「学び」をテーマにお話をお伺いしました。

後編では、Impact Hub Kyotoで開催したワークショップについて、そして、長年取り組んでおられる学校教育のための教材開発、そして、「5年先に起こしたいチェンジ」についてお話いただきました。 (前編はこちらでお読みいただけます。


Impact Hub Kyotoでのワークショップで、参加者の反応はいかがでしたか。

とても楽しかったです。みなさんがとても熱心で、わたしの話で刺激を受けていただい ているということが感じられて嬉しかったですし、こちらも勉強になりました。 アマチュアとして謡のお稽古をされる方はありますが、ここでのワークショップは、た だ謡が謡えるようになるということではなく、謡を通して「学ぶ」ということがテーマで したので、それを意識して色々やらせていただきました。技術的なこともやりましたが、 私が経験したこと、私自身がその経験から得た学びを共有して、色々なことに活かしてい ただけたら嬉しいです。

ワークショップでは研究・開発中の教材を使っていただきましたが、取り組みのきっかけを教えていただけますか?

明治維新以後、能が遠いものになり、学校教育の現場が西洋音楽ばかりになってしまった。第二次世界大戦以降、懐古主義的に伝統はすごいみたいな言い方をされても、実際には身近にない。それをなんとかしようと思うと、家庭の問題もありますが、学校教育という場が大きいのですね。しかし、学校教育に持ち込みたくても、教員の方々がご存知ない。ともかく学校の先生方が興味を持って、授業ができるような体制を作りたいと常々思っていました。文化庁が学校教育の場に伝統音楽を持ち込むための研究に助成することを知り、この6~7年ほど取り組んできました。

小中高の先生、大学の先生、音楽、国語、社会の先生、教員養成の先生、クラシックの音楽家、教育委員会、京都府の文化芸術の担当など、色々な方に集まっていただき、委員会形式でやってきました。実際の授業で使えるように、教材を作り、学習指導要領に基づく学習指導案も付けて、実際に学校の先生に集まっていただいて提案しました。さらに、実際に学校で子どもたちを相手にやってみて、今度は、学校の先生にやっていただく。それを見て、こちらもまた考え直す。これを6年繰り返してきました。そして、出来上がったのが今回使った教材です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々な分野の方々と一緒に作るということは、初めから考えていらしたのですか?

はい、能楽師だけではなく、色々な方々と一緒にやらなくてはと常々考えていました。いろんな人が

いて、いろんな学問があって、異分野と刺激しあうということが大事です。他の劇場の子ども向けの催しなども見に行き、様々な方が関わっているからこそ、できることがあるということを感じています。以前からの繋がりが、色々な出会いや新しい繋がりを生んでいます。能楽師だけで考えると、説明して、体験して、実演を見て・・・となりがちですが、それで学校で授業はできません。能楽師は能のことは知っていますが、教育の専門家ではありません。教育の場に能を持ち込むのと、お弟子さんにお稽古をするのは区別しなければいけません。

教育現場での変化は感じておられますか?

感じます。講座を受けた方は、授業ができる!と思って、実際やってくださる方が増え てきました。教員の方を対象にした講座にも呼んでいただいています。 学校の先生が自信を持って「こうやってください」と言ってほしいですね。これまでは 「能はわからないから、お願いします」と能楽師に丸投げされていたのですが、この教材を見て、 先生自身が興味を持って「これだったら、こうできるな」と考えてほしいのです。 一昨日、ようやくビデオが出来上がったので、今日、持ってきました! 「羽衣」が全 編収録されているものと、指導用のものと2枚組です。学校の先生が授業を組み立てられ るように、それぞれ映像の長さも全て記載しています。これから、この教材に合わせて使 えキストも作りたいと思っています。学校の先生が必要な部分をダウンロードして、子ど もたちに配れるように。ウェブサイトにどう掲載するか専門の方と相談しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業で使いやすいように教材には色々な工夫をされていますね。

こちらが「こうしてください」というのではなく、学校の先生にご自身で考えて授業を組み立ててほしいのです。能楽師がやるではなく、学校の先生が主体的にやる。そのための手立てとなるものは、親切に作る必要があると思います。私は大学の時に教員免許をとったので、学習指導要領があって学習指導案を作って…という学校の先生がされていることを学ぶ機会がありました。それで、学校で使いやすいものを作らなくてはと思っていました。使ってもらえないと、何も始まらないですから。

 

「子どもにとって能を学ぶ意味は何ですか」という質問にどのように答えますか?

「人間として、しっかり立つ」ということだと思います。別の言い方をすれば、アイデンティティの確立ということです。

能には、神の祝福、鎮魂、極限状態の人間が描かれています。人間とは何だろう、古代から人間が続けてきたものは何だろうということですね。平安時代の恋愛、鎌倉末世の人の救い難い魂…、室町時代の人が考えたことなどが600年続いてきて、日本人の教養、精神性となっているのです。はっきり言って、難しいです。哲学だから。でも、そういうものを子どもの時から身近に感じて親しんでいれば、大人になるにつれて、その思想や精神性といったものがだんだんと見えてくるようになる。

例えば、絶対に戦争はしてはいけないということが、能の思想だと私は思います。戦をした人は地獄へ落ちて苦しみ続ける。能の謡にそういうことが描かれているのです。かつて、武士は教養として謡を学び、刀を持っていても人を殺めてはいけないという武道の考え方を身につけていました。庶民も寺子屋で謡を学び、慣れ親しんでいたので自然に先人の思想を知り、しかも識字率が高かった。「しっかりした人」がいる国を作ることに繋がるのです。先ほど、アイデンティティと言いましたが、「自己肯定ができる」ということです。自己肯定ができれば、他者を認められるんです。文化はどれも違い、どれもユニークです。異文化と出会った時に尊重し合う。過去に

色々なことがあった。でも、未来に向かっていくために、まず互いに認め合わなくては何も始まらないと思います。

 

5年先にどんなチェンジを起こしたいとお考えでしょうか?

全国の子どもたちが、教室で謡をうたっている。そして、謡を通して、日本を知るようになる、自分の身近なことをもっと知るようになってほしいですね。まず、自分の町や村で、どんな先人がいて、どんなことをしてきたのか、そういうことに興味を持つようになってほしいです。そして、その上で広い世界を見てほしい。広げるために足元を見てほしいのです。

大学で英語で話す授業も担当していますが、英語が下手でも、言いたいこと、伝えたいこと、知ってほしいことがいっぱいあるということが大事だなと強く思います。自分が話すものを身の内に持ってほしいですね。日本人が持っている、何でも取り入れる価値観、多様性を認める価値観を自信を持って話すことができる人が増えてほしい。そういうチェンジができたらいいなと思います。

 

取材日:2020年3月26日

(インタビュー・執筆・構成:小島寛大)

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