アジア太平洋起業家育成プログラム(AMP)
――インパクトハブワイカトが4回目の地域セッションを主催
インパクトハブは、世界50以上の国、100以上の都市に拠点を持ち、社会的インパクトをもたらすことを目指す起(企)業家が集まるコーワーキングスペース・コミュニティです。
その中で、アジア太平洋の10のインパクトハブ(京都、ダッカ、クアラルンプール、上海、台北、プノンペン、マニラ、ワイカト、ジャカルタ、ヤンゴン)が共同して、2021年7月より、起業家育成プログラム“Accelerate Membership”を、Bank of America/Shopifyとの連携で、提供しています。参加起業家は、アジア太平洋10か国で100名を数えます。
Impact Hub Asia Pacific Accelerate Membership
Fourth Regional Session – “Measuring Social Value”
企画者:Impact Hub Waikato
発表者:Huber Social (オーストラリア)
2021年9月8日
今回のセッションのテーマはimpact measurementインパクト・メジャーメント(測定)だ。インパクト・マネジメントは、英語圏およびグローバルのビジネス業界において必須な概念。
簡単にいうと、「インパクト・メジャーメントとは影響力を把握する」ということ。
企業・会社として、どのようなインパクト・影響があるのかを把握するための大事な概念である。インパクト・メジャーメントは政策、ビジネス、ソーシャルワークなどの分野において近年ますます重視される分野です。
日本語で詳しくインパクト・メジャーメントについて読みたい場合、以下の記事をご参考ください。
https://www.alterna.co.jp/25088/
セッションの講師はオーストラリアのHuber Social(https://hubersocial.com.au/)というインパクトを測定するための基準を作り出した会社の二人のBrett Nan Tie氏とSimon Vaughan氏。
Huber Socialの創立者が経営コンサルティング会社の出身で、その経験から会社が成功するために何を測定する必要があるのか、または社会的なインパクトを作る方法などがわかってきた。Vaughan氏は国際的開発やNGOで働く背景があり、NGOや開発関係の機関が十分にインパクトを測定していない、把握できていないと感じ、その業界を離れることにしてHuber Socialに入ったそうだ。
インパクト測定は社会貢献的活動において重要性が高まっているが、多くの会社・機関・団体はまだインパクトについて十分に語れていない、と説明する。
国やコミュティの進捗を把握するために、これまではGDPや経済力が重視されてきたが、進捗測定の指標としてGDPは適切ではない、と多くの専門家が指摘してきた。なにかがGDPにいいから社会にいいという訳ではない、ということである。
一つの例として、自動車事故が挙げられた。事故が起きると様々なコストが出てくるのでGDPにいい影響はあるが、社会にいい影響があるとはいえないだろう。インパクト測定において、社会に何がいいのか、私たちに何がいいのかを測定する必要はある。
インパクト測定はこの数年で爆発し、大きなビジネスとなってきた。インパクト測定は、ポジティブなインパクト(影響)だけではなく、ネガティブなインパクト(影響)を測定する必要もある。測定する場合、そのイベントが起きなかったら、代わりに何が起きるのかなどの具体的なことについて考える必要もある。測定によってその影響がわかったら、もっといい決断はできるはずだ。
ポジティブなインパクトがないと見られたら会社の投資も影響されるので、多くの企業がインパクト測定に関心をもってきた。
インパクト測定への関心が高まってきたことで、測定する方法も増えてきた。これはいいことでも悪いことでもある。
いいことしては、ソーシャル・インパクト(社会的な影響)に関心が高まるとポジティブな変化を起こす機会が増えることはある。
悪いこととしては、測定方法が多ければ多いほど混乱しやすいとのこと。結果としてどの方法を使えばいいのか、または効果的に測定できなかったり、コンプライアンスのためだけにインパクトを測定するなどの問題はある。
SDGはインパクトを測定する一つの方法だが、問題としては多くの会社がSDGを果たしている・目指しているといいたがるが、実際にそのSDGを達すために何もしていない。何かのインパクトを目指している場合は、実際に、具体的に人の行動を変える、何かの変化を起こす必要はある。
インパクト測定には科学的と経理的という二つのアプローチはある。経理的なアプローチは推測に基づいて、アウトプットを重視している。Qualitative(調査的)より、quantitative(量的)な方法である。Huber Socialは、科学的で調査的な方法を好んでいる。
インパクトを測定する際に、最終的な目標について考える必要はある。なぜ、今これをやっているのか、という質問を、仕事をしながら問いかける必要はあり、やっていることがちゃんと目標に向かっているのを確かめることが重要である。
Huber Socialによると、インパクトは根本的にウェルビーイングと繋がっている。ウェルビーイングは幸せやハピネスと異なる。ウェルビーイングは日常生活の現状に対する満足度、幸せは感情を指している、という違いである。ウェルビーイングは測定できるものであり、他の人のウェルビーイングを定義ることはできないが個人個人が自分のウェルビーイングを測定できる。 ソーシャル・インパクト(社会に及ぼす影響)およびソーシャル・バリュー(社会的な利益)について考えるために、ウェルビーイングというレンズを通してみる必要がある。
ウェルビーイングは様々な理解があり、客観的にウェルビーイングを定義しようとしている動きもある。しかし、これは問題である。客観的なウェルビーイングの基準を作ることは人のウェルビーイングを単純化してしまい、人々が生きている現実を反映しない可能性が高い。ポジティブに人々の生き方を変えたいなら、その人々のニーズをしっかり把握する必要はある。勝手に人と話さずに予測してはいけない。
Huber Socialによるウェルビーイングという概念は、客観的なものではなく、個人的なものであり、把握するために直接個人に聞くことが重要である。ウェルビーイングを測定するための質問は様々あるが、、Huber SocialはEd Diener先生のSatisfaction with Life Scale(https://eddiener.com/articles/1302 )を利用している。
インパクトを測定することは必ず行動につながる必要はある。測定して、もっと効果的に目標を果たすためにどうすればいいのか、という過程である。正直に測定することも重要で、測定の限界や見えないところも認める必要はある。過程としては、しっかりした仮説を作り、そこから測定する。できるだけ具体的に考えて、実際にできることについて考える。
ケーススタディーとして 、Huber Socialが実際に関わっていたLove Mercyプロジェクト(https://www.lovemercyfoundation.org/)が紹介された。
Love Mercyの場合、コミュニティのニーズを把握するために調査をした。パソコンやインターネットがないウガンダの田舎のプロジェクトで、調査方法をその環境に合わせて作られた。
鉛筆と紙を用意し、コミュニティの人々にアンケートを記入してもらったり、ワークショップなども行ってきた。
効果的に測定するために、測定方法を環境に合わせる必要がある。 また、生の声を聴く必要もある。勝手に想像するのではなく、実際に人と話し、その人のことを知ることが重要である。大変なプロセスではあるが、効果的にインパクトを測定するために必要ではある。
まとめとして、起業家へのアドバイスもあった。起業家として特に資金調達のために自分のインパクトを言語化することがとても大事である。
最後の方に質疑応答の時間があった。質問の中でアウトカムとアウトプットの違いについての質問があった。アウトカムとは、何をしているかの理由・原因であり、アウトプットはその結果、とのこと。