岩元禄に寄せて 〜ある一つのスケッチ〜
21 2月 2021 - hubkyoto

京都国立近代美術館にて開催されている「分離派建築会100年 建築は芸術か?」での岩元禄の展示に際して、建築の生産技術の解明・継承・活用に関する研究を行なっている「早稲田大学 山田宮土理研究室」がご協力されました。

研究室のメンバーである、萩小田大我氏が西陣産業創造会館を実際に訪れ、外観やレリーフをスケッチされました。そこに表されているのは自由な造形性、曲線や曲面、自然の造形。分離派建築会が追い求めた「芸術としての建築」そのものでした。あまりに素晴らしく、感動いたしました29歳の若さで世を去り、建物の中に入ることができなかった岩元禄のかわりに、西陣産業創造会館の3階から京都を臨んでいただけたらと考えています。

▼下記、本人コメント

2019年の春、京都の建築家和田寛司さん設計の改修工事の下見をするなど、

京都をふらふらと見て回った。最近、街中で見ない曲線を有する建物を見つけた。建物正面壁に添えられた彫刻とコンクリートパネルには女性の姿がある。コンクリートは白くキラキラとしていて、女性を讃えているようにみえた。岩元禄設計の旧京都中央電話局西陣分局舎である。

私は早稲田大学の研究室で、この建物のレリーフパネルの三次元データをもとに作られた石膏型枠から、滋賀江州の左官職人・小林隆男によるコンクリートパネルの再現製作に立ち寄ったことがある。御影石の白い凹凸を露にする洗出し仕上げが見所だ。微粒子の掃き出しと吸水に長けた刷毛(考案:九州左官職人・荒木富士男)を用い、セメントの肌色の肌から白い粒が顔を出す作業は見ていて興味深かった。

コンクリートといえば荒々しく武骨なイメージがあるが、粒子スケールで物事を見極める左官職人が扱う施工は丁寧かつ繊細であった。コンクリートパネルは、石膏型からすんなりと剥がれ、型抜きを意識した意匠(踊子の凹凸)であることを再認識した。また、このレリーフパネルが、金物釘4,5本で煉瓦壁に打突け固定されていたことには驚いた(現:補強ボルト有)。  分離派建築といえば、瀧澤眞弓の”山の家”という石膏で作られた建築モデルが記憶にある。

造形を一つの材料から作り出すことは、新たな形や思想を表現するのに適していると考えていたために惹かれたのかもしれない。岩元禄による女性の裸体彫刻(トルソー)は、関東ローム層の赤土粘土で原型を製作し、ひび割れないように濡れ雑巾を毎日かけながら製作したという話がある。私も粘土で製作した模型が、教授陣の前でプレゼンするときにはバキバキになっていたことを思い出す。トルソーとは、手足顔のない体の躯体部分のみの彫刻のことであり、ローマの遺跡から発掘された彫像が起源とされる。また、不完全さや、そこらの石ころのような存在そのものを肯定することを意味する。これは対象と背景を分ける漫画の線のように、そのものを何かしらに変換して表す表現する行為と相反する。

トルソーを考えるとペルソナが思いつく。和辻哲郎の”面とペルソナ”では、能面を取り上げ、胴体や顔、人格の宿先を考察している。心理学では、混沌からパターンを知覚するアポフェニアと既に知っているパターンをある対象に見出すパレイドリアという現象がある。例えると、顔に見える石や木目なんかがそれである。そんな意識が旧京都中央電話局西陣分局舎の踊子が宿るファサード制作の過程にあったのではないか。

分離派建築会100年 建築は芸術か?

会期:2021年1月6日(水)~3月7日(日)
※会期中に一部展示替えがあります。
前期:1月6日~2月7日/ 後期:2月9日~3月7日

開館時間:午前9時30分~午後5時
金曜日、土曜日は午後8時まで開館
1月16日(土)より当面の間、夜間開館は中止します
*入館は閉館の30分前まで
*新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があります。来館前に最新情報をご確認ください。

休館日:月曜日、1月12日(火)
*ただし1月11日(月・祝)は開館

観覧料:
一般:1,500円(1,300円)
大学生:1,100円(900円)
高校生:600円(400円)
※( )内は前売りおよび20名以上の団体
※ 中学生以下は無料*。
※ 心身に障がいのある方と付添者1名は無料*。
※ 母子家庭・父子家庭の世帯員の方は無料*。
*入館の際に証明できるものをご提示下さい
※ 本料金でコレクション展もご覧いただけます。
※ 前売り券は11月21日~1月5日までの期間限定販売
※ チケット販売所:チケットぴあ(Pコード:685-427)、ローソンチケット(Lコード:53827)、セブンチケット(セブンコード:086-791)ほか、主要プレイガイド、コンビニエンスストアなど (チケット購入時に手数料がかかる場合があります)