「日本の伝統を身近に」をコンセプトに、日本茶業界に新たな風を送り込む株式会社LiV 代表取締役の須藤惟行さん。同社は「人生の価値を最大化する」を企業理念に、京都・河原町に日本茶スタンド「YUGEN」を2018年にオープンするなど、京都に息づく伝統を現代に再構築し継続的に継承することを目指し、卸売から物販、飲食店など様々な事業を展開しています。
Impact Hub Kyotoの会員でもある須藤さんに、起業のきっかけ、日本茶への想い、今後の展望などをお伺いしました。
起業されたきっかけを教えていただけますか?
起業というと大げさな感じですけど、もともと新卒で入った会社を3ヶ月で辞めて、同世代と4人で会社を立ち上げたり・・・みたいな感じで起業したんです。起業についての思いっていうと・・・お茶の事業をしたかったからです(笑)
なぜ、「お茶」で起業しようと?
ぼくは小学校の時からお茶を良く飲んで習慣になっていたんです。最初に引っかかったのは留学した時。それまで飲んでいたお茶がないって感じました。同じように、東京で働いていた時も、ここにはお茶がないって感じたんです。でも、実家にはお茶があるんです。
当時、マーケティングの仕事をしていたんだけど、世間の抹茶ブームを自覚できなくて・・・。自分が好きだったのは飲む抹茶で、流行っていたアイスとかかき氷とかは違ったんですね。
日本を代表するお茶の企業の会長さんと話す機会があって、いろいろ教えてもらったんですけど、「ぼくの知ってるお茶って、どこへ行ったんですか?」って聞いても「これから来るのはお菓子の抹茶とペットボトルの煎茶(緑茶)が来る」と。「確かにそうだよな・・・寂しいな」って思ってたんです。内閣総理大臣賞を取るようなお茶農家の人に「飲む抹茶とかなくなっていくんですか」って聞いて「そういう可能性はある」って返された時に、また「寂しいなぁ」って思ったんです。
でも、お茶を求めている人が増えれば文化は継承されるはずだし、良いお茶を作る人も良い暮らしができるはずなんですよね。継承される仕組みが失くなっているのが問題だって思って、事業を始めたんです。
子どものころにお茶を飲んでいた経験が、今に繋がっているんですね。
そうですね。きっかけですね。子どものころからの習慣だったんですよ。親がお茶をしていましたし、「体に良い」とか「頭が良くなる」とか言われてたんですよ。
事業を通して、日本茶について知ってほしいこと、感じてほしいことはありますか?
3つあります。まず、お茶を飲む行為が、自分の心を豊かにしてくれているということ。歴史上でも戦国武将も戦のことばかり考えてたら疲れちゃうから、心を落ち着かせるためにお茶の時間を利用していたと思うんです。それと同じで、現代に人たちにもお茶を飲んでホッとする気持ちを感じてほしいと思ってます。
2つ目は、健康のこと。先ほど、親から「体に良い」と言われてたとお伝えしましたが、実際にお茶って体にいいんです。人間の寿命が100歳とかって言われても、
3つ目は、昔は本当のお金持ちしか味わえなかった良いお茶が、今はもっと身近に手に入るようになったと伝えたい。世の中の大半の人たちが毎日明日のごはんで必死だった時代がかつてはあって、でも今は色んな嗜好品が楽しめる時代になっている。嗜好品ってワインとかコーヒーとかもあるんですけど、日本人にとって最も身近な嗜好品にはお茶もあるんだよって伝えたい。
この3つのメッセージがぼくのエゴみたいなもので、お茶業界への恩返しのつもりでやってます。
「エゴみたいなもの」、「恩返しのつもり」と仰られましたが、それが行き着く先にどうなってほしいと思いますか?
せっかく生まれてきたんで、僕はお茶を通じて何かを残したいと思っています。先細っているお茶産業に対して、全力でコミットしてる人って少ないんです。僕の知ってるのは飲む抹茶で、今ブームになってるお菓子とかに混ぜられるものとは作られ方からして違います。「飲むお茶ががなくなっていくのが寂しい」ってところから始まってるから、僕がお茶を残したいという気持ちはエゴだと思ってます。同時に、今までお茶を作ってきてくれた方々に恩返しをしたい。仕事仲間、生産者がハッピーだったら僕は嬉しいです。それも全部僕のエゴですけどね。
読者の中にはお茶が身近にない方々も多いと思いますが、須藤さんはどんな時にお茶を飲んでほしいと考えられていますか?
理想は、毎朝、飲んでほしい。僕はいつもそうしてます。特にお勧めなのは、自分の中のスイッチをオンにするとき。現代は、みんなスイッチがオンになってない時代だと考えています。自分のことを最大限に楽しんでない人、肯定してない人も、お茶を飲んで自分の中のスイッチをオンにしてほしい。そして、人生と共にお茶を楽しんでほしいです。
次は、ビジネスの話に入っていきたいと思います。今現在、ご自身の事業にコロナの影響はありますか?
卸の案件先はどういったところが多いのですか?
基本的には飲食店や宿泊施設ですね。コロナで一番打撃を受けたのは。宿泊施設で、一時期ほとんどストップしてしまいました。ただ、最近は落ち着いてきたのか、案件の数は戻ってきています。地域としては京都が多いですけど、海外におろしている割合も他の企業より多いかもしれません。
YUGENのブランドはDtoC形態でも成果をあげてらっしゃっるとお聞きしたのですが、DtoCに対する考え方をお聞かせください。
DtoCは時代にあってると思います。お茶は、これまで卸売りが入っている業者がいて、更に物流のコストもかかっていた。DtoCだとそこのコストがないから、お客さんに対して安く提供できるし生産者さんにも還元率が高くできる。お客さんの立場からもDtoCの方が良いよね。
今はトレーサビリティの問題もあって、安いけどその裏に搾取されている人がいると消費されにくい時代になってきている。それを考えたうえでビジネスを考えなきゃいけない。DtoCはそういう意味でも時代にマッチしたビジネスなのかなと思っています。
今後のYUGENの展望をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?
もっとYUGENのブランド事業が大きくなっていくことかな。京都はコーヒーの消費が日本一。パンやケチャップなんかも消費量が高くて、洋の食文化なんです。お茶は観光客のものとしての産業になっているような気がしてる。もっと京都の人たちに良いお茶を身近に感じてほしいってコンセプ
新店舗ですか!いったい、どのようなお店を作られる予定ですか?
今の実店舗以上に本当にいいお茶があるんだよって場所を作ろうと思っています。まだ、場所も選定途中なんだけど、郊外に0から建築家さんと一緒に作ろうと思っています。できれば、来年夏までには完成させたい。
いくつか理由はあるのですが、そのうちの一つに、これまで、僕の店舗は取材とかを断っていたんです。1度取材を受けた際にものすごい数のお客さんが来て、売り上げは凄くあがったけど、お客さんの満足度は下がっちゃうことがあって。ただ、お茶に注目してもらえるチャンスなのに取材を断るのも心苦しい。これから作る店舗は、そうしたチャンスも存分に受け止められるキャパシティを持たせたい、と考えています。
最後に、Impact Hub Kyotoに関わるきっかけを教えてください。
東京から京都に引っ越してきたときに面白そうだなって思ったコワーキングスペースがImpact Hub Kyotoだったんです。他のコワーキングオフィスも見たんですけど、同じ専門領域の人だけで集まってるような雰囲気にあまり馴染めなくて。
Impact Hubのどこに魅力をかんじていますか?
関係がない領域の人たちのつながりがあること。学校みたいな感じ。みんな、いろいろな専門を持ってるプロやセミプロが集まってて、利害だけじゃないコミュニティが出来てるところは気持ちよく感じています。利害だけじゃないコミュニティは、大人になると難しいんですよね。僕はシェアが好きだから、Impact Hub Kyotoのコミュニティを魅力的に感じています。今は忙しくて来れてないから、もっと来たいと思ってるけど(笑)。
最後に、一言メッセージをお願いします。
今、うちの会社は人材を募集しています。お茶が好きか嫌いかは関係はなくて、エネルギーがあるのに燻ってると感じている人に来てほしいですね。今度の新店舗でスイーツを出してくれるガチンコのパティシエも探してるところです。もし興味がある人がいれば!(笑)
本日はありがとうございました。
ありがとうございました! ぜひ、お茶を飲みに来てください!
インタビュー:2020年10月13日(火) 原田岳(Impact Hub Kyoto MAKER)、住田裕亮(Impact Hub Kyoto インターン)
編集記
今回、須藤さんに1時間ほどお話を伺い、ご自身の原点から持論までお聞かせいただきました。終始穏やかな語り口調ながらも確かな熱量を持ったまなざしが印象的で、大変密度の濃いインタビューができました。
こうしたインタビューを記事にすることは大変で、いざ記事に!と意気込めば、密度の高い熱量に押されて言語化が難しいものです。実は、この記事を書く前にインタビュー内容を文字に起こすべく、ソフトを駆使して自動化できないかと悪戦苦闘して、録音のノイズなどの問題で、最終的には音声データを何度も聞き返しながら執筆しました。しかし、文字に起こせないインタビューの空気や声の調子を感じながら執筆できたことから、結果的には良い記事に仕上げることができたと考えています。これを読んだ方に須藤さんの持つ熱を感じ取ってもらえたなら、この苦労にも意味があったのだろうと報われる思いです。
最後に、今回インタビューを受けてくださった株式会社LiV代表取締役の須藤惟行さま、記事の校正を手伝っていただいたImpactHubKyotoの皆さまにこの場を借りて御礼申し上げます。(住田裕亮)