『聞きたい!この人のお話』vol.9 〜 マシュー・マノスさん(verynice, CEO)
3 10月 2019 - impact hub kyoto

聞きたい!この人のお話

マシュー・マノスさん(verynice CEO

「ビジネス」と「クリエイティブ」と「社会貢献」を結びつけた全く新しい組織「verynice」を創設したマシュー・マノス(Matthew Manos)。Forbes誌で「クレイジーか天才か」と呼ばれ、Huffington Postで「世界を変える7人のミレニアルズ」に選ばれた世界的なデザイン戦略家、教育者、社会起業家である彼に、「verynice」の取り組みについて話していただきました。

 

プロボノにめざめたきっかけは?

1516歳の頃、公園でスケートボードの練習をしていたら、車椅子の人が素晴らしいフリップとクレイジートリックをやっていて、感動しました。思わず話しかけたら、彼は障がいのある人をエクストリームスポーツに参加させるNPOを運営してると言うのです。ちょうどグラフィックデザインを独学していたので私は、彼のNPOのためにステッカーをつくるボランティアを申し出ました。そのことを弁護士である父に話

 

したら、それは専門的なスキルを社会貢献に活かす「プロボノ」だと教えてくれました。ちょっと個人的なのですが、高校時代に私は健康上の問題があって、万一死ぬかも、命は大切なんだと、15,6才でしたが、自分の人生の目的は何だろう、考え、人のためになることをしようと決めました。万一死ぬようなことになったら、誰かが覚えていてくれる、と思ったし切羽詰まっていたせいもあります。これがプロボノにめざめたきっかけです。

 

プロボノをビジネスに組み込むアイデアはどこから生まれたのですか?

UCLAのデザインスクールに入学後、学生グループの一員としてボランティアでグラフィックデザインをしていました。2年生になったとき、学生グループのリーダーだった人たちが卒業して、就職先でグラフィックデザイナーが必要だというので、私に仕事を発注してくれたのです。それで、プロボノと有料の仕事が結びつきました。2008年ころでveryniceの起こりですね。デザインの仕事があまりに多かったので、すでに友だちを巻き込んでいて、有料の仕事をもらうと、彼らにも少しだけ払うことができました。これは私のライフワークかもしれないと思いました。最大のメリットは、NPOのプロジェクトにデザインを提供することによって私が社会の課題や問題解決を学ぶことができることでした。けれども、恥ずかしがり屋の私にはこの思いつきを人に話すことはできず、ウェブサイトをつくって、ようやく自分のやっていることを公表してみたのです。すると、ワシントンDC在住の20歳くらい年上のデザイナーからボランティアの申し出があり、彼女と一緒にNPOのためのデザインワークをしました。その後も次から次にボランティアをしたいデザイナーから申し出があり、今では世界中に700人以上います。

 

新しい試みへの反発などはありましたか?

「verynice」を設立したのは2008年、最悪の不況の頃でした。はじめは「なぜ仕事をタダでやるんだ?」と言われました。世の中のチェンジに疎い人は、私がタダでやることで自分の立場が脅かされると感じ、怒りや否定的なコメントを送ってきました。

当時を振り返ってみると、ビジネスと社会貢献を共存させることは、私にとって大いなる学びでした。パートナーシップがなければできなかったでしょうね。

 

デザインには社会を変える力があるとお考えですか?

大学院でMFA(美術学修士)を取得するために、テクノロジーとアート、起業家精神に関するクラスで学び、私自身のデザインに対する認識が変わりました。デザインとは、問題解決、あるいは問題発見なんです。クライアントが考えているコンテンツのアイデアを実現できるコンセプトに落とすのもデザインです。デザインには社会の変化を促進する力があると思います。美はみんなのためにある。美しいデザインは誰でもアクセスが可能です。

 

プロボノとビジネスの比率はどのくらいですか?

いろいろ試した結果、2010年からはプロボノとビジネスの割合を5050にしています。もともとプロボノかまたは市場に即した料金で仕事を受けていたのですが、私たちのクライアントは中規模から大規模のNPOが多く、通常の料金を払ってもらうのは難しかったので、変動制を導入し割り引き料金で対処しています。

 

非倫理的な企業の仕事は引き受けないのですか?

たぶん非倫理的な企業にとって、「verynice」は魅力的ではないと思います。なぜなら、私たちは常にそのプロジェクトや商品が持つ社会的な影響や社会的な責任について問いかけるからです。なにしろ、私たちは誰かを助けることが自分たちの助けになることを実感していますから。

 

そういう仕組み自体が人材育成にもなっていますね。

確かにそうですね。私たちのネットワークにはたくさんの学生ボランティアや若いクリエイターが参加します。たとえば今、若いデザイナーがプロボノで取り組んでいるのは、ベルリンのSkateistanというNPOが北アフガニスタンの女性のためにスケートボードの作り方を提供するキャンペーンです。北アフガニスタンの女性はスポーツを禁止されているのですが、スケートボードはスポーツではないから女性のスケートボーダーが多いのだそうです。この仕事は、若いデザイナーにとって、とてもいい経験になると思います。

私たちのネットワークは完全にオープンなので、登録して直ぐに仕事はなくてもFacebookを通じて他のデザイナーと出会いがあったり、USC(南カリフォルニア大学)で教えていますから授業にクライアント持って行きますから、多くのフレームワークを作ってProbonoデザインを通しサービスを学べます。今、veryniceではカリフォルニア州立大学ロサンジェルス校と一緒に仕事をしています。これはAlisa、私たちのデザインディレクターが担当していますが、Probonoプロジェクトを見つけ、広告のクラスを結びつけ、Alisaがメンターで先生たちと一緒に30名の学生が手伝っています。Nonprofitですが。

VeryNiceも引き続き、学生にプロボノワークを提供することで、Nonprofitは学生の仕事ですからプロのデザイナーと比べたら完璧ではなくてもソコソコのものを獲得しますし、学生は学べますから、これは十分インパクトがあると思います。

 

社名の「ベリー・ナイス」はどこから思いついたのですか?

何をしようかと考えたときに、ワードの新規ファイルを開いて、まず「最終目的」と書き、「とてもいいデザイン会社をつくる」と書いたのです。それで、おお、この名前はいいなあ!社名は「ベリー・ナイス・デザインスタジオ」で行こうと。たぶん2分もかかっていません(笑)。その後、デザイン以外にも戦略やコンサルティングなどを提供するようになったので、「デザインスタジオ」をとって、ただの「ベリー・ナイス」になったのです。

 

社会貢献のビジネスモデルの創出を可能とするModels of ImpactMOI)について教えてください。

設立10周年の節目を迎えたときに(註)、私たちは次に何をするつもりか?と考えました。景気が回復に伴って、企業は小規模なデザイン会社を買収して社内でデザイン業務を行うようになり、外注をしないようになりました。景気がいいとデザインプロジェクトを見つけるのが難しくなります。その次に何をするのか?多少怖くはありますが、新しいサービスを見つけることにじつはワクワクしています。ひとつはワークショップの進行です。社内にワークショップのファシリテーターを持っている会社はありません。

Models of Impactのワークショップは、戦略的ビジネスモデルと社会的企業を立ち上げるプロセスをシミュレートするアイデアゲームを通して、革新的なビジネスモデルを設計するものです。スペイン、ロシア、ブラジル、アメリカなど100カ国、約3万人の教育者、学生、起業家、組織が活用し、新しいビジネスモデルのコンセプトを生み出しています。このワークショップに参加した人は、新しいやり方でビジネスを理解します。世界をよりよい場所にする、と。

1人で1000のプロジェクトをプロモートすることはできませんが、MOIにはそれができます. 

 

註)2008Very Nice発足10周年を機にノウハウを GiveAll提供。

 

取材:浅井俊子  取材協力:須藤潤 マシュ日本展開パートナー(First Japanese MOI global ambassador)