話題の書籍『ティール(Teal)組織』の著者フレデリック・ラルー氏の講演が先月4月14日(土)、Impact Hub New York Cityで行われました。

「マネジメントの常識を覆す次世代型組織」「変化の激しい時代における生命体型組織」としてポスト資本主義において重要なモデルとして注目を浴びているこの「ティール組織」執筆に関して、そして彼のウェブサイトに新たに追加されたプロジェクトで今回のイベントのタイトルにもある「Insights for the journey」について質疑応答形式で語っていました。

当日はニューヨークの会場はもちろん、スイス、日本、カナダ、ブラジル、メキシコ、オランダ、ドイツ、南アフリカ、スーダン、ベルギー、フランス、中国、アメリカ、イスラエル、ニュージーランド、アルゼンチン、インド、ポーランド、イギリス、チリなど世界中から234人がZoom(ビデオ会議用アプリ)で参加する大規模なイベントとなりました。

今回はラルー氏とImpact Hub New York Cityで行われたダイアローグの内容をまとめました。


『ティール組織』の執筆に至るきっかけを教えてください。

私はマッキンゼーのコンサルタントとして10年以上という長期に渡り、組織変革プロジェクトに携わっていました。何かを構成立てて遂行することが元々得意だったこともあり、小規模チームで活動することはとてもエキサイティングで楽しく自分にも合っている仕事でしたが、それと同時に心ではモヤモヤするものも抱えていました。「これがなくては生きていけない」という心の奥底から湧き出てくるものがない中で日々過ごしながらも、例えば半年後には人生で何をすべきか分かるようになっている、と思ったりもしていました。

そんなある日受けたコーチングセッションが私を変えてくれたのです。3時間にも及ぶセッションはそれはもう厳しいものでした。その女性コーチは3時間私をぶっ通しでぶち続け挙句、セッションが終了しても私の名前を覚えていないようなユニークな方でしたけどね(笑)。その厳しいセッションを通して、なぜ自分が物事を先延ばしにする傾向があるのかを見つめ直すことができ、セッションが終わった翌日には辞表を出していました。辞表を出すまでは自分の”外の世界”で働いていたのに、会社を辞めてからは自分の”内なる世界”を冒険することになりました。それは自分にとって全く新しい経験でした。

その後、エグゼクティブ・アドバイザーやファシリテーターとして独立し、世界中の組織の調査を経て本書を執筆することとなります。


執筆にまつわるお話を聞かせてください。

物書きがよく言うように、私にも書きたいものが“降りてきて”からはリサーチも書くことも進みましたが、一番の難関は「出版」でした。編集者を追いかけ回すほどのエネルギーはないし、生来マーケティングには向いていない性格なので、どうしていいのか全く分からなかったのです。

ここで私が本当にラッキーだったのは、私のお気に入りの哲学者にコンタクトをとり原稿の一部を送ったところ、一緒に進めようかと提案してくれたことです。それを聞いた時は「もちろんお願いします!」って感じでしたね(笑)。彼にはもともと5万人のニュースレターのフォロワーがいたので、彼とのインタビューをオンライン上に投稿したところから全てがいい方向に転び出しました。


本書がこれほどの広がりをみせている理由は何だと思いますか?

執筆後に私がよく受け取るメッセージとして、「私一人がクレイジーじゃないと知れてよかった」というものがあります。各々が属している組織が持つ固有の構造や文化、システムへ疑問を持つと孤立してしまうことがあります。本書は「何事も可能だと感じていた」「何か別の方法があるのではと思っていた」と思っていた方々へ「やっぱりこんなものが存在していたんだ」と認識するきっかけを与えることができたと思っています。それまで抱えていた痛みを代弁し、新たな可能性を開いたところにこの本の価値があると思っています。

また、本書執筆にあたりこの本が誰にどのように受け止められるかなど、ターゲットや今後の展望などを一切考えなかったことが逆に受け入れられた要因だと思います。私が声を大にして言いたいことは、人々は過度なブランディングに疲れているということです。「著者はこうあるべきだ」「マーケティングはこうするものだ」というものに囚われず、本書執筆にあたって私は書きたいことを書きたいように書きました。出版後に私の元へくる方々は、本の内容よりも私の人生など個人的な質問をされることが多いことにとても驚かされます。こちらが「ところで、本の内容について聞かなくてもいいのかい?」と思ってしまうほどです(笑)。人は人に興味があり、ブランドやマーケティングを超越した自然な姿を求めていると再認識しています。


『Insights for the Journey』プロジェクトについて教えてください。

本を執筆したとはいえ、私は元々著者ではありません。執筆の際も初めから出来のいい原稿がかけたわけでは到底なく、どちらかというと頭の中にあることをビデオカメラに向かって言い、それを録画するほうが性に合っているくらいでした。また幸運なことに、私は執筆の際に行っていたリサーチの過程でメモを事細かに取っていました。それを見返しているうちに、各組織の要人と話した内容の中にとても興味深い思考などがたくさん詰まっていることに気づきました。

それらを全て書くことはやはり性に合っておらず、目の前のカメラに話しビデオシリーズにしたほうがはるかに楽しく楽だと思ったことがきっかけで、『Insights for the Journey』というビデオレクチャーシリーズが始まりました。元々何かを順序立てて行うことは得意だったので、構成はスムーズにできましたね。

気をつけたことは、ビデオ一本の所要時間を5〜10分、長くとも15分に絞ったこと、そして書籍とビデオの内容を違うものにすることです。ビデオの内容は「様々な場所から組織や事業を構成立てて運営することができるのか」「そしてそれをどのようにするか」に焦点を当てています。

現在は私主導で情報発信をしていますが、それだと私の考えや私の観点からどうしても偏りが出てしまいます。将来的には様々な分野の方々が私と同じように情報発信をし、様々な分野を様々な観点から発信することで、様々な人々の助けになればと願っています。

『Insights for the Journey』サイトはこちら


このプロジェクトを通して印象に残っていることは何ですか?

私が学んだ中で一番確かなことがあります。それは”やりたいことがはっきりすればするほどその道のりは簡単になる”ということです。

ある大学病院のCEOと話をする機会があったのですが、彼女はナースの権利を守りより良いサービスが提供できるよう、どうすればナースのモチベーションを高い水準で維持できるか、そしてナースの立場をどのように上げることができるかということに尽力していました。大きな力に反旗をひるがえすような態度や行動を取るリベラル的な彼女に私は「なぜそんなことをするのか」と何度も尋ねました。反発すればするほど、かえって火に油を注ぐことになり大きな力に飲まれてしまうからです。「なぜそんなことをするのか」としきりに尋ねる私に彼女は答えに詰まってしまいました。しかし、何度も尋ねるうちに彼女は次第に事の次第を打ち明け始めてくれました。彼女が大学病院を立ち上げる前のある日、たまたま病院の近くで待ち合わせをしていた時に病院の前でただ立って何かを待っているナース2人を見つけたと言います。「何をしているんだろう」と思っていると、そのナースたちは夕方4時になったと同時にタイムカードに打刻して帰宅していったのです。彼女たちはただ4時になるのを待っていただけだったようでした。彼女たちもナースを志した頃、働き出した当時の思いはそうではなかったはずなのに、その当時の彼女たちの心情や職場の状況を知った時に、その現状を打破したいと考えるようになったと語気を強めて語ってくれました。そんな彼女をみて、ただスローガンを掲げるよりも、人それぞれがもっている情熱やストーリーをシェアすることで、そこにたどり着くまでの道のりがとても容易いものになると気付いたのです。

なにより、ストーリーを語っている間、その人は何者にも抗おうとしなくていいのです。

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組織とは人の集合体ですが、ラルー氏は本当に人を一人一人として捉えていると感じました。違う観点やバックグラウンドがある様々な人々が集まるからこその組織、だからこそこれからの組織は誰か一人に誘導されるものではなく、生命体のように臨機応変に変幻自在に変わっていくものとなる。ラルー氏の人柄や考え方に触れることで、『ティール組織』がどのように執筆されることになったのか、その根源を垣間見ることができたような気がします。

まだまだビデオを通してだけですが、一度お目にかかって実際に話を聞いてみたいと心から思いました。

asada

asada

Impact Hub Kyoto の企画づくりと触媒となるコーディネーター。
原始宗教や精神性などの文化人類学的興味から、セックス、お金、仕事などの人類の普遍的テーマとその進化に関心をもつ。社会を良くするためのエコシステムの構築と探究がテーマ。組織のNo.2や補佐役の研究者でもある。好きなものはキャッチコピーづくり。